古代ローマの哲学者セネカの著作「怒りについて」(原題:De Ira)を読んでいきます。
原文には私の文法的解釈に基づいて長音記号を付し、一部のアルファベットのUはVに、IはJに置き換えています。
底本、参考書籍・Webサイト
・Perseus Digital Library 【https://www.perseus.tufts.edu/】
・The Latin Library【https://www.thelatinlibrary.com/】
・Wikisource【https://en.wikisource.org/wiki/Of_Anger】
Liber I 1-1
Exēgistī ā mē, Novāte,
ut scrīberem quemadmodum posset īra lēnīrī,
exigō, -ere, -ēgī, -actum:要求する
Novātus, -ī:ノウァートゥス(セネカの兄)
scrībō, -ere, scripsī, scriptum:書く
quemadmodum / quem ad modum:どのように
possum, posse, potuī:できる
īra, -ae, f.:怒り
lēniō, -īre, -īvī, -ītum:和らげる
<和訳>
あなたは私に要求した、ノウァートゥスよ、
怒りはどのようにして和らげられることができるのかを私が書くことを

ut以下は名詞的目的文で、「~ように、ことを」と訳します。
名詞節として動詞Exēgistīの目的語と捉えてもよいでしょう。
nec inmeritō mihi vidēris hunc praecipuē adfectum pertimuisse
maximē ex omnibus taetrum ac rabidum.
nec:~でなく
inmeritus / immeritus, -a, -um:~に値しない、不当な
inmeritō / immeritō:不当に
videō, -ēre, vīdī, vīsum:見る、(pass.) ~らしく見える、~と思われる
praecipuē:特に、とりわけ
adficiō / afficiō, -cere, -fēcī, -fectum:働きかける、ある気分にさせる
adfectus / affectus, -ūs, m.:情念(パトスの訳語)
pertimeō, -ēre, timuī:非常に恐れている
maximē:最も、非常に
taeter, -tra, -trum:不快な、下劣な
ac (=atque) : ~と、そして
rabidus, -a, -um:狂暴な、猛烈な
<和訳>
また当然にも、私からするとあなたはとりわけこの不快で狂暴な情念を他の何よりも非常に恐れていたように思われる。

文脈から、否定語necは直後のinmeritōにかかると考えます。
inmeritōは「不当にも」といった意味で形容詞inmeritusから派生した副詞ですが、ELDには”undeservedly, unjustly, without cause”とあります。
やや意訳ですが、否定語と併せてこれの反対語として「当然にも」という言葉を充てました。
文末のtaetrum ac rabidumの解釈に少し悩みましたが、形からadfectumにかかる形容詞と判断しました。
vidēris以下は不定法句で、動詞にあたるのはpertimuisse(不定法・完了)、目的語はadfectumです。
Cēterīs enim aliquid quietī placidīque inest,
cēterus, -a, -um : その他の、残りの
enim : 確かに、もちろん
quiētus, -a, -um : p.p. [quiesco] 休息している、落ち着いた
placidus, -a, -um : 静かな、おとなしい
insum, -esse : 内在する、含まれる〈+dat〉
<和訳>
確かに、その他(の情念)の中には静かなものや穏やかなものも含まれるが、

quietīとplacidīqueの扱いに困りますが、両者は接尾辞-queによって並列の関係にあることは明白です。
文脈と勘案し、形容詞の名詞的用法の属格として捉えることで、直訳としては「落ち着いたものや静かなもののいくらかは、その他の情念に内在する」となります。
hic tōtus concitātus et in impetū est,
tōtus, -a, -um : 全体の
concitātus, -a, -um : pp. [concitō] 急激な、興奮した、激しい
impetus, -ūs m. : 突進、勢い、衝動、発作
<和訳>
この情念は全く急激で激情の中にあり、

dolōris armōrum,
sanguinis suppliciōrum minimē hūmānā furens cupiditāte,
dolor, -ōris m. : 苦痛
arma, -ōrum n.pl. : 道具、武器
sanguis, -guinis m. : 血
supplicium, -ī n. : 祈願、供物、代償
minimē : 最も少なく、少しも~でなく
hūmānus, -a, -um : 人間的な
furō, -ere : 狂乱する、激怒する
cupiditās, -ātis f. : 熱望、野心
<和訳>
武器の苦痛と血の代償への、非人間的な欲望によって怒り狂い、

dum alterī noceat suī neglegens,
alter, -era, -erum : 二つのうち一方の
noceō, -ēre : 傷つける、害する〈+dat〉
neglegens, -entis : pres.p. [neglegō] 無頓着な、不注意な〈+dat〉
<和訳>
他者を傷つけるまで我を忘れ、

in ipsa inruens tēla et ultiōnis sēcum ultōrem tractūrae avidus.
inruō/irruō, -ere : 飛び込む、突入する〈in alqd〉
tēlum, -ī n. : 飛び道具、武器
ultiō, -ōnis f. : 復讐、報復
ultor, -ōris m. : 復讐者、罰する者
tractūra, -ae f. : 引く(引っ張る)こと trahōの未来分詞
trahō, -ere, traxī, tractum : 引く、引っ張る、引き起こす
avidus, -a, -um : 熱望している〈+dat〉、貪欲な、好戦的な
<和訳>
矢の中に飛び込み、復讐者自身をも報復に引き倒すことを熱望する。



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